大きな存在と自意識
はじめに
私たちは、大きな存在の一部になることを本能的に求めている。
それは、生まれる前は宇宙の一部で、死んだ後も宇宙の一部となるから。
※この感覚は仏教の「縁起」や「無我」の思想に通じる。すべての存在は関係性の中にあり、個としての自我は幻想にすぎないとされている。
自意識との関係
大きな存在の一部になっている実感が持てないと、自意識が大きくなってしまう。
※心理学者カーヴァーとシャイアーの「自意識理論」では、自己への注目が高まると不安や自己批判が増すとされている(Carver & Scheier, 1981)。
人と比べなくて済む方法
何に注意を向けるかというのが大事になってくる。
こうあるべきという社会の要求ではなく、自分の心の底から湧き上がる信念。
それを大きな存在として、一挙手一投足がそれを体現するものになっているかどうかに意識を向けよう。
そうすれば、無駄に人と比べなくて済む。
※社会的比較理論(フェスティンガー, 1954)では、人は他人と比較して自己評価を行おうとする傾向があるが、自律的な内的信念に基づく行動は、メンタルヘルスの安定に寄与するという研究もある。
我を忘れて・・・
自分を忘れるという視点で言うと、自分以外の状況をよく観察するという方法もある。
もしくは、我を忘れて物事に没頭する。
掃除や洗濯を丁寧にやってみるという行動も欠かせない。
そのことによって、自分以外の存在の一部になることができる。
それが自然。
※心理学者ミハイ・チクセントミハイによる「フロー理論」では、没頭して自我を忘れる体験は、幸福感や自己効力感を高めるとされている(Csikszentmihalyi, 1990)。
自意識を小さくして、世界の一部になろう
自意識過剰の状態は、何かの一部になれていないということ。
その状態では不安を感じるのも無理はない。
靴の締め付け具合や、シャツの襟の部分のよれ具合、髪型など自分の細かい部分が気になってしまう(過剰に)のを防ぐには、何かの一部になることを行えばいい。
そうすれば、自意識が小さくなっていく。
そして、この世界の一部になることができる。
※これは自己意識の高さが不安を助長するメカニズムと一致する(Carver & Scheier)。また、マインドフルネスの実践でも、外部への注意や他者への共感が自意識の過剰な集中を和らげるとされている。
大きな存在の例
- 万博
- ライブ
- 自然
※社会学者エミール・デュルケームは、祭りやライブのような「集合的トランス体験(collective effervescence)」が、人々に一体感と超越的な感覚を与えると述べている。
自然との一体感については、「森林浴」や「ネイチャーセラピー」の研究で、ストレス軽減・自律神経の調整に効果があると科学的に裏付けられている(宮崎良文, 2012)。
参考になる文献
この記事で取り上げているテーマは、「自意識」「大きな存在とのつながり」「比較しない心の在り方」などについてです。以下の文献が参考になります。
- Carver, C. S., & Scheier, M. F.(1981)
Attention and Self-Regulation: A Control-Theory Approach to Human Behavior. Springer.
→ 自意識が高まることで不安やストレスが増す心理的メカニズムを解説。 - Csikszentmihalyi, M.(1990)
Flow: The Psychology of Optimal Experience. Harper & Row.
→ 我を忘れて没頭する「フロー体験」が幸福感を高めるとした代表的研究。 - Festinger, L.(1954)
A Theory of Social Comparison Processes. Human Relations, 7(2), 117–140.
→ 人間が自己評価のために他者と比較してしまう心理を説明した社会的比較理論。 - 宮崎 良文(みやざき よしふみ)(2012)
『森林浴の科学』NHK出版
→ 自然と触れ合うことがもたらすストレス軽減・心身の調和についての科学的研究。 - Durkheim, É.(1912)
The Elementary Forms of Religious Life.
→ 祭りや宗教儀式における「集団的陶酔(collective effervescence)」がもたらす一体感を論じた古典的社会学書。 - 中村 元(なかむら はじめ)(1969)
『仏教語大辞典』東京書籍
→ 仏教の「無我」「縁起」など、自己と世界の関係を示す概念を解説。
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